初飛び

2001年10月27日、初飛びをしました。その時の模様を、友人に宛てたメールです。あのころは、初々しかったな。



野呂です。

昨日土曜日、ついに高度差800mを独りで初飛行しました。時間にして10分余。感動。

実は、先週の日曜日早朝が初飛行の予定だったんですが、山頂に登るも風の状態が悪く、やむなく断念。安全第一なので、風のコンディションが良くなければ、初心者は飛ぶことができません。しかし、下のゲレンデの風の状態はなかなか良く、気持ちよく短距離飛行を繰り返し、空中浮遊を楽しむことができました。下のゲレンデでは、高度差約10m、飛行距離3,40mの飛行ができます。飛んでは斜面を登り、これを繰り返すので、すぐに汗が体中から噴き出し、結構な運動量になります。パラグライダー本体とハーネス(パラと自分の体を接続する衝撃吸収構造の椅子状)を合わせた総重量は、約18kgあります。ハーネスだけで、約12,3kgかな。緊急用の予備パラシュートと、木の上にやむなく降りてしまったときに安全に降りるための装備一式を内蔵しているため、結構な重量になります。
短距離飛行では、離陸、目的地に向かう操縦、着陸の各要素を繰り返し練習します。離陸、これがかなり難しい。ペラペラな布きれを空気の力で翼にし、飛び立ちます。うまくしないと真っ直ぐ前に進むことができません。パラ本体の幅は、ゆうに10mを超える大きさです。力で向かってかなう相手ではありません。何せ、自分の体を易々と持ち上げてしまうのですから。パラ本体を頭上に立ち上げて、体重をかけつつ斜面を走ると、程なく身体が宙に浮きます。
着陸。これがまた難しい。パラグライダーで怪我をする可能性が最も高い場面です。地面からの高さが1mほどになったとき、向かい風で両手のコントロールコードを一杯引き、機体を減速しつつソフトに着陸です。風の方向、強さをちゃんと考えなければ、時速40km以上の速度で着地する羽目になり、足をついた瞬間前方に吹っ飛ばされ、痛い目に遭います。しかし、上手に着陸すると、階段を1段降りる程度の、ほとんど衝撃のない着陸ができます。

いよいよ初飛行。
初心者が空中散歩を楽しむには、大気が安定してることが必要です。朝と夕方前は、大気が穏やかで、その条件を満たします。良く晴れた日中は、上昇、下降気流が随所に存在し、機体が揺すぶられ、時には細心の操作が要求されます。しかし、上昇気流を上手に捕まえると、パラグライダーはどんどん上昇し、離陸した地点から時には1000m以上高度を上げ、2,3時間以上飛行することも可能になります。
27日土曜日、いつものように下のゲレンデで練習を開始しました。午後3時頃、スクールの校長先生から、ゴンドラに乗り、山頂に向かうようにとの指示がおりました。インストラクターは、山頂に居る人、飛行中の人と無線で常時やりとりをし、辺り一帯の風の状態を常に把握しています。校長とは別のインストラクターと、今回一緒に初飛行をする練習生の長谷山さんとゴンドラリフトに乗り込み、標高1760mの山頂に向かいます。ゴンドラの中で、飛行時の目標物の確認を行い、現在の風の状況とそれに即した飛行経路、方法の説明を受けます。ゴンドラを降り、スキーゲレンデの急斜面に向かいます。風はとても穏やか。風速約1mの南の風。初飛行に絶好の条件。斜面でパラグライダーを広げ、コードの絡みがないかをチェックし、ハーネスのロックを入念に確認し、一回大きく深呼吸。急斜面を駆け下り、無事離陸。何度も繰り返し練習した動作ですが、今回はどんどん地面が遠くなっていきます。さっき乗ってきたゴンドラリフトが子供の玩具の様に小さく見えています。やった、今俺は空中を飛んでいる。左右の胸には、指示を受けるための無線機を取り付けてあります。初飛行で万が一無線機の調子が悪くなると、結構具合の悪い事態になるので、2つの無線機を携帯しています。無線機からは、離陸ポイントで飛行経路の指示を出すインストラクターの声。あらかじめ指示を受けた目標に向かい飛行を続けます。ハーネスにゆったりと座り直し、辺り一面を見渡します。遙か眼下にはゲレンデ、レストハウス、町並み、そして正面には八ヶ岳、見上げると力強く空気をきるパラグライダー。パラグライダー本体と自分の身体を繋ぐコードは、風圧で後方に緩やかに弧を描いています。パラグライダーの対気速度は時速約35〜40km。自分の身体を支える数十本のコードが空を切る音と、ヘルメットをかすめる風の音だけが聞こえる、まるで夢の中のような不思議な空間です。
しばらくすると、着陸予定地から校長先生の無線指示。飛行経路の細かな修正を指示される。数百m下から、練習生の動作を手に取るほど把握している。恐怖、不安は全くない。
着陸地点に向かうべく、風下への大きな左旋回。着陸地点を右下に確認し、さらに風下へ。着陸地点を正面にとらえて8の字旋回を繰り返し、徐々に高度を下げていく。いよいよファイナルアプローチ。数十m四方の牧草地に向かう。ハーネスから身体を起こし、走る体制を整える。どんどん地面が近づいてくる。正面に安定した向かい風を受け、牧草地のほぼ真ん中に向かう。地上まであと数m、コントロールコードを緩やかに引き始める。地上まであと1.5m、コードを一杯まで引く。ふわりと地面に着地し、その後数歩あゆみ出る。今まで空気を力強くはらみ、翼の機能を果たしたパラグライダー本体が、どさりと後方に落ちる。校長先生や、先輩フライヤーたちからおめでとうの声。校長先生と固い握手を交わす。記念すべき初フライト、無事終了。
ようやく空への扉が開いた。



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